ウェイク語

Tisinufe

 Tisinufeとは、自らを守るための高度なシステムのことである。つらい記憶を忘れさせ、失敗をしなくてすむよう挑戦することを阻み、周囲の人々とうまく調和できるように自らの望みを口にすることを思いとどまらせてくれる。地上に生まれ、生きてきた環境の中で身につけた常識や日常の枠から、うっかりはみ出してしまわないように常にSielaを監視し、枠の外を見せないようにしてくれる。Tisinufeに悪意はない。丸太を結び合わせた素朴ないかだで大海に漕ぎ出すような無茶をしかねないSielaを、「あなたにはその力がない」と忠告し、地上で生きていけるよう見守ってくれているのだ。自我やエゴとも呼ばれる。

 ゴーレムをご存知だろうか。ユダヤの伝承にある、土で作られた巨大な人形のことだ。Tisinufeはゴーレムに少し似ている。「EhohuであったSielaが、地上で生きていけるように守れ」と命を受けたTisinufeは、忠実に従う。歩きはじめた赤ちゃんが、家中を自由に歩きまわって不用意に怪我をしないように、ベビーサークルで囲っておく保護者のようなものだ。Tisinufeはあの手この手を使って、Sielaを守りたいだけなのだ。

 ゴーレムの動きを止めるためには、ゴーレムに命を吹き込む額の文字「エメット」を一文字消して、「メット」にすればいいという。Tisinufeの動きを止めるには、Sielaが自由であることこそがSielaを守ることであるとTisinufeが学ぶことである。Tisinufeの設定する枠を、まずはほんの少しだけはみ出してみる。Tisinufeは、ここまでなら大丈夫らしいと学習して、枠をほんの少し広げる。それを繰り返していくうちに、どうやらSielaに直接従うほうがSielaにとっていちばんいいことのようだとTisinufeは考えるようになる。